OJTの効果を最大化する5つのポイント:実践的な指導で部下を早期戦力化!

目次

はじめに:OJTは「教える」から「育てる」へ

「OJT(On-the-Job Training)」という言葉を聞いて、あなたはどのようなイメージをお持ちでしょうか?「とりあえず隣で業務を見せて、あとはやらせてみる」「忙しいから、自分で覚えてもらうしかない」そう考えてはいませんか?もしそうであれば、そのOJTは本来の効果を十分に発揮できていないかもしれません。

現代のOJTは、単に「業務を教える」という狭い意味合いに留まりません。部下一人ひとりの成長段階や特性に合わせ、自律的な学びを促し、現場での実践を通して「自ら考えて行動できる人材」を育てる、より能動的かつ戦略的な人材育成手法へと進化しています。企業が持続的に成長していくためには、変化の激しいビジネス環境に対応できる自律型人材の育成が不可欠であり、その中核を担うのが効果的なOJTなのです。

しかし、多くの企業では「OJT担当者の負担が大きい」「指導方法が属人化している」「効果が見えにくい」といった課題を抱えています。特に、初めて部下を持つ新任マネージャーやOJTトレーナーの方々は、「何をどう教えればいいのか」「部下との接し方はどうすればいいのか」といった不安を抱えがちです。

本コラムでは、このような課題を解決し、OJTの効果を最大限に引き出すための5つのポイントを具体的に解説します。明日から実践できるノウハウを学ぶことで、あなたのOJTは「教える」から「育てる」へと進化し、部下の早期戦力化とエンゲージメント向上に大きく貢献することでしょう。

1. 目標の明確化と共有:OJTの羅針盤を設定する

効果的なOJTの第一歩は、部下と育成担当者双方で「何を達成するのか」という目標を明確にすることです。曖昧な目標では、部下は何を頑張ればいいのか分からず、育成担当者も適切な指導ができません。目標はOJTの羅針盤であり、部下のモチベーションを維持し、成長を可視化するための重要な要素となります。

1-1. SMART原則で具体的な目標を設定する

目標設定の際には、「SMART原則」を活用することをお勧めします。SMART原則とは、以下の5つの要素の頭文字を取ったものです。

  • S (Specific):具体的に
    • 例:「仕事を覚える」ではなく「〇〇システムのデータ入力業務を、1時間あたり〇件の速度で正確に完了できる」
  • M (Measurable):測定可能に
    • 例:「頑張る」ではなく「週次レポートを毎週月曜午前中に提出する」「顧客からのクレーム件数を月間〇件以下にする」
  • A (Achievable):達成可能に
    • 例:現実離れした目標ではなく、部下のスキルレベルや経験を考慮した上で、努力すれば達成できるレベルに設定する。
  • R (Relevant):関連性があるか
    • 例:部下の業務内容やキャリアパス、部署目標、ひいては会社全体の目標と関連性のある目標を設定する。
  • T (Time-bound):期限を設ける
    • 例:「いつか」ではなく「3ヶ月後までに」「〇月〇日までに」といった具体的な期限を設定する。

SMART原則に沿って目標を設定することで、部下は「いつまでに、何を、どのレベルまで達成すれば良いのか」を具体的に理解でき、主体的に行動しやすくなります。育成担当者も、部下の進捗を客観的に評価し、適切なフィードバックを行うことが可能になります。

1-2. 目標の共有とすり合わせの重要性

目標を設定したら、必ず部下と共有し、すり合わせを行いましょう。一方的に与えられた目標では、部下は「やらされ感」を感じてしまい、モチベーションが低下する可能性があります。部下自身の意見や目標に対する考えを聞き、納得感を持って目標に取り組めるよう対話することが重要です。

目標設定のミーティングでは、以下の点を意識しましょう。

  • 目標の背景と意義を説明する: なぜその目標が重要なのか、達成することで部下自身やチームにどのような良い影響があるのかを具体的に伝える。
  • 部下の意見を聞く: 部下自身が目標に対してどのように感じているか、懸念点はないかなどを聞き、必要に応じて目標を調整する。
  • 期待値を明確にする: 目標達成に向けて、育成担当者としてどのようなサポートができるか、部下にどのような行動を期待するかを伝える。

このように目標を明確化し、部下と共有し、すり合わせることで、OJTの「羅針盤」がしっかりと設定され、部下は迷いなく成長の道を歩み始めることができるでしょう。

2. 定期的なフィードバックと対話:成長を促すコミュニケーション術

OJTにおいて、目標設定と同じくらい重要なのが「フィードバック」と「対話」です。フィードバックは部下の成長を加速させ、対話は部下との信頼関係を深めるための不可欠な要素です。多くのOJT担当者は「忙しくてフィードバックの時間が取れない」「何を話せばいいか分からない」と感じているかもしれません。しかし、効果的なフィードバックと対話は、決して特別な時間やスキルを必要とするものではありません。

2-1. ポジティブ・フィードバックと改善点のフィードバックのバランス

フィードバックには、大きく分けて「ポジティブ・フィードバック(承認・賞賛)」と「改善点のフィードバック(助言・指導)」の2種類があります。

  • ポジティブ・フィードバック: 部下の良い点や成長した点を具体的に伝え、承認し、賞賛することで、部下の自己肯定感を高め、モチベーションを向上させます。「〇〇の資料、いつも丁寧に作ってくれて助かるよ」「先日のプレゼン、〇〇の部分がとても分かりやすかったね」といった具体的な行動や結果を褒めることが重要です。
  • 改善点のフィードバック: 部下がさらに成長するために必要な改善点や課題を具体的に伝え、解決策を共に考えるものです。「〇〇の資料はとても丁寧だけど、もう少し□□の部分を簡潔にまとめると、さらに分かりやすくなるよ」「プレゼンの〇〇の部分は良かったけど、□□の点で聞き手が混乱した可能性もあるから、次回は△△を意識してみようか」のように、人格を否定するのではなく、行動や結果に焦点を当て、具体的にどうすれば良くなるかを伝えることが重要です。

これらのフィードバックをバランス良く行うことで、部下は自身の強みを認識しつつ、改善点にも前向きに取り組むことができるようになります。ポジティブ・フィードバックを7割、改善点のフィードバックを3割程度の割合で行うと良いとされています。

2-2. 定期的な1on1ミーティングの実施

日常的な声かけだけでなく、定期的な1on1ミーティングを設定しましょう。週に1回、30分程度でも構いません。1on1ミーティングでは、業務の進捗確認だけでなく、部下の悩みやキャリアに対する考え、プライベートな相談など、幅広いテーマで対話できる場にしましょう。

1on1ミーティングを成功させるためのポイントは以下の通りです。

  • 傾聴に徹する: 部下の話を遮らず、まずは最後まで耳を傾ける。部下の言葉の裏にある感情や意図を汲み取ろうと努める。
  • 質問を投げかける: 部下自身に考えさせるような質問(「どうすれば改善できると思う?」「次は何を試してみたい?」など)を投げかけ、自律的な思考を促す。
  • 心理的安全性のある場を作る: 部下が安心して本音で話せる雰囲気を作る。どのような内容でも否定せず、受け入れる姿勢を示す。
  • 次につながるアクションを決める: 対話の中で出た課題や目標に対して、次の行動を具体的に決め、共有する。

定期的なフィードバックと対話は、部下の成長だけでなく、育成担当者自身のコミュニケーション能力向上にも繋がります。

3. 多様な学習機会の提供:OJTは現場だけではない

OJTは「On-the-Job Training」という言葉の通り、現場での業務を通じて学ぶことが基本です。しかし、効果を最大化するためには、現場での経験だけに頼らず、多様な学習機会を提供することが重要です。これにより、部下は多角的な視点から学びを深め、より早く成長することができます。

3-1. OJTとOff-JTの連携

OJTとOff-JT(Off-the-Job Training:集合研修やeラーニングなど、職場を離れて行う研修)を効果的に組み合わせることで、学習効果は飛躍的に高まります。

  • Off-JTで基礎知識や理論を学ぶ: 例えば、ビジネススキル研修でプレゼンテーションの基礎を学んだ後、OJTで実際の業務でのプレゼンを経験させる。
  • OJTで実践と応用を繰り返す: Off-JTで学んだことをOJTで実践し、フィードバックを受けながら、自身のものにしていく。
  • OJTで得た疑問をOff-JTで解消する: OJTで直面した課題や疑問点をOff-JTの場で専門家や他社の参加者と議論することで、より深い理解を得る。

このように、OJTとOff-JTが連携することで、部下は知識と実践のサイクルを回しながら、効率的にスキルを習得できます。育成担当者は、部下がOJTで経験する業務内容に合わせて、適切なOff-JTを提案できるよう、自社の研修プログラムを把握しておくことが重要です。

3-2. メンター制度や社内勉強会の活用

OJT担当者一人が部下育成の全てを担う必要はありません。多様なロールモデルとの接触は、部下の視野を広げ、新たな気づきを促します。

  • メンター制度: OJT担当者とは別の先輩社員をメンターとして部下につけることで、業務以外の悩みやキャリアに関する相談ができる場を提供します。これにより、部下は心理的な安心感を得られ、OJT担当者には話しにくい内容も相談できるようになります。
  • 社内勉強会やランチ会: 部署内や社内で定期的に勉強会を開催したり、ランチ会などで非公式な交流の場を設けたりすることで、部下は他の社員から知識や経験を学ぶことができます。特に、普段接することのない部署の先輩社員との交流は、部下にとって貴重な刺激となるでしょう。
  • 外部セミナーやイベントへの参加推奨: 興味のある分野や業務に関連する外部セミナーやイベントへの参加を促すことで、部下は社外のトレンドや専門知識に触れ、新たな視点や刺激を得ることができます。

多様な学習機会を提供することで、部下はOJT担当者からの指導だけでなく、多角的な視点から学びを深め、より自律的な成長を遂げることが可能になります。

4. ハラスメントリスクの理解と適切な指導:安心・安全な育成環境を築く

OJTを進める上で、最も注意すべき点の一つがハラスメントリスクです。良かれと思って行った指導が、意図せずハラスメントと受け取られてしまうケースも少なくありません。部下が安心して成長できる環境を築くためには、ハラスメントに対する正しい知識と、適切な指導方法を身につけることが不可欠です。

4-1. ハラスメントの定義と種類を理解する

ハラスメントとは、相手の意に反する不適切な言動によって、相手に不利益や不快感を与え、就業環境を害する行為を指します。代表的なものには、以下の種類があります。

  • パワーハラスメント(パワハラ): 優越的な関係を背景とした言動により、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える、または就業環境を悪化させる行為。
  • セクシャルハラスメント(セクハラ): 性的な言動により、相手に不利益や不快感を与える行為。
  • モラルハラスメント(モラハラ): 精神的な攻撃や嫌がらせによって、相手の尊厳を傷つけ、精神的な苦痛を与える行為。

これらのハラスメントは、行為者の意図に関わらず、受け手がどう感じたかで判断されることが多く、曖昧な部分もあります。そのため、常に「相手がどう感じるか」を意識し、言動には細心の注意を払う必要があります。

4-2. ハラスメントにならない指導のポイント

では、ハラスメントにならない指導とは具体的にどのようなものでしょうか。以下のポイントを意識して指導を行いましょう。

  • 目的を明確にする: なぜその指導が必要なのか、部下の成長にどう繋がるのかを具体的に伝える。「君のためを思って」といった曖昧な表現ではなく、具体的な行動や業務改善に繋がる理由を説明する。
  • 人格ではなく行動に焦点を当てる: 「君はいつも〇〇だ」といった人格否定につながる発言は避ける。「今回の〇〇の対応は、□□の点で改善の余地がある」のように、具体的な行動や事実に焦点を当てて伝える。
  • 公開の場で叱責しない: 部下の尊厳を傷つけないよう、注意や指導は個室など他の社員がいない場所で行う。
  • 感情的にならない: 怒りや苛立ちといった感情に任せて指導することは避ける。冷静に、論理的に伝えることを心がける。
  • 他の社員と比較しない: 部下を他の社員と比較して貶めるような発言は、劣等感や不満を抱かせる原因となる。
  • プライベートな領域に踏み込まない: 業務に関係のないプライベートな質問や詮索は行わない。
  • 相手の意見を聞く姿勢を持つ: 一方的に話すのではなく、部下の言い分や考えを聞き、対話を通じて理解を深める。
  • 指導の限界を理解する: 部下が何度も同じミスを繰り返す場合でも、一方的に責めるのではなく、指導方法の見直しや、上司・人事部門への相談を検討する。

OJT担当者は、部下の成長を願うからこそ、厳しく指導することもあるでしょう。しかし、その指導がハラスメントと受け取られないよう、常に部下への配慮と尊重を忘れずに行動することが重要です。自信を持って適切な指導を行うためには、ハラスメントに関する正しい知識と具体的な事例を知っておくことが非常に役立ちます。

5. OJT担当者自身の成長と支援:一人で抱え込まない

OJTは、部下を育てるだけでなく、OJT担当者自身も大きく成長できる機会です。しかし、その一方で「自分の業務が忙しいのに、部下の育成まで手が回らない」「部下の指導に行き詰まっている」といった悩みを抱えることも少なくありません。OJT担当者が一人で抱え込まず、安心して育成に取り組める環境を整えることが、OJT全体の効果を高める上で非常に重要です。

5-1. OJT担当者自身の成長を促す視点

部下を指導する過程で、OJT担当者自身も以下のようなスキルを向上させることができます。

  • コミュニケーション能力: 部下の話を傾聴し、適切な質問を投げかけ、分かりやすく説明するスキルが向上する。
  • 課題発見・解決能力: 部下の業務課題を共に解決する過程で、自身の課題発見・解決能力も磨かれる。
  • リーダーシップ: 部下のモチベーションを高め、目標達成に導く経験を通じて、リーダーシップが養われる。
  • マネジメント能力: 部下の進捗管理や目標設定を行う中で、プロジェクトマネジメントの視点や能力が向上する。

OJTは、単なる業務の一部ではなく、自身のキャリアアップに直結する重要な役割であると認識することで、より前向きに取り組むことができるでしょう。

5-2. OJT担当者への支援体制の構築

OJT担当者が安心して育成に取り組めるよう、企業として以下のような支援体制を構築することが望ましいです。

  • OJT担当者向け研修の実施: OJTの基礎知識、効果的な指導方法、フィードバックのスキル、ハラスメント対策など、OJTに必要なスキルを体系的に学ぶ機会を提供する。
  • 上司や人事からの定期的なフォロー: OJT担当者の業務負荷や部下の状況について、上司や人事担当者が定期的にヒアリングし、必要に応じてサポートを行う。
  • 相談窓口の設置: OJT担当者が悩んだり困ったりしたときに、気軽に相談できる窓口(メンター制度、専門家への相談機会など)を設ける。
  • 成功事例の共有とナレッジ化: うまくいったOJTの事例を社内で共有し、OJT担当者間で情報交換ができる場を設ける。これにより、指導方法の属人化を防ぎ、組織全体のOJTレベルを向上させる。
  • 業務負荷の軽減: OJT担当者の業務量が過剰にならないよう、他の業務の調整やサポートを行う。

OJTは、組織全体の協力体制があって初めて効果を最大化できるものです。OJT担当者が安心して、そして意欲的に部下育成に取り組める環境を整備することで、企業全体の成長に繋がる好循環を生み出すことができるでしょう。

まとめ:効果的なOJTで未来の組織を創る

本コラムでは、OJTの効果を最大化するための5つのポイントとして、「目標の明確化と共有」「定期的なフィードバックと対話」「多様な学習機会の提供」「ハラスメントリスクの理解と適切な指導」「OJT担当者自身の成長と支援」について解説しました。

OJTは、単なる業務の引き継ぎではなく、部下一人ひとりの可能性を引き出し、自律的に成長できる人材を育成するための重要なプロセスです。そして、その成功は、OJT担当者のスキルと意識にかかっています。

もし、あなたが「初めて部下を持つが、どう育成すれば良いか分からない」「OJTのやり方がこれで良いのか不安」「部下とのコミュニケーションに悩んでいる」といった課題をお持ちであれば、ぜひ当社の「初めての部下育成・OJT研修」をご検討ください。

本研修では、OJTの基本原則から効果的な指導方法、部下との信頼関係構築術、世代間ギャップ解消のコミュニケーション、そしてハラスメント対策まで、OJT担当者が自信を持って部下育成に取り組めるようになるための実践的なノウハウを体系的に学ぶことができます。座学だけでなく、豊富なワークやロールプレイングを通じて、明日からすぐに現場で活かせるスキルを習得できるカリキュラムとなっています。

部下と共に成長し、組織の未来を担う人材を育成するために、今こそOJTの質を高めませんか?皆様の課題解決の一助となれば幸いです。

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この記事を書いた人

職場の育成風土をつくる専門家。個人指導700名、のべ35,000名の指導実績がある。歯科医院、教育サービス業、建設業、清掃業、介護事業、飲食業、アパレル、保険、公立小中学校など業種業態問わず、1名から700名の研修・講演多数。「わかりやすく、即実践できる」をモットーに、学習塾で培った誰でも楽しく学べる教育スタイルには定評がある。マナビポップ株式会社代表取締役。

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