はじめに:現代ビジネスパーソンを蝕む「ストレス」という名の敵
現代社会は、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代と呼ばれ、私たちを取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。経済のグローバル化、テクノロジーの急速な進化、予期せぬパンデミックや自然災害… 。こうした変動性の高い環境の中で、ビジネスパーソンは常に新しい情報に適応し、複雑な問題解決に迫られ、曖昧な状況での意思決定を求められています。
このような状況は、個人に多大なストレスを与え、心の健康を蝕む原因となります。仕事でのプレッシャー、人間関係の悩み、将来への不安など、ストレスの種は尽きません。厚生労働省の調査でも、仕事や職業生活に関することで強いストレスを感じている労働者の割合は常に高い水準で推移しており、メンタルヘルス不調による休職・離職も増加傾向にあります。
しかし、ストレスや逆境は、必ずしもネガティブなものばかりではありません。私たちは、困難な状況に直面した時、その状況を乗り越えるための「心の力」を持っています。それが「レジリエンス(resilience)」です。
本コラムでは、この「レジリエンス」とは何か、なぜ今これほどまでに注目されているのかを深掘りし、あなたの、そしてあなたの組織の成長を加速させるためのヒントを提供します。
レジリエンスとは何か?~心の回復力と適応能力~
レジリエンスとは、元々は物理学の分野で「弾力性」「復元力」を意味する言葉でした。ゴムが引っ張られても元の形に戻るように、金属が衝撃を受けても折れずに耐える力のように、ストレスや困難に直面した際に、しなやかに適応し、回復する能力を指します。心理学の分野では、「逆境や困難、強いストレスに直面した際に、それを乗り越え、立ち直る精神的な回復力や適応能力」と定義されます。
単に元に戻るだけでなく、レジリエンスの高い人は、困難な経験を通して「より強く」「より賢く」成長する傾向があります。つまり、逆境を「経験」として消化し、そこから学びを得て、次なる成長の糧とすることができるのです。これは、単なる「我慢強さ」や「打たれ強さ」とは一線を画します。我慢強さは耐え忍ぶことですが、レジリエンスはしなやかに状況を受け入れ、積極的に対応し、さらに前進する力を含んでいるのです。
なぜ今、レジリエンスが注目されるのか?
現代社会において、レジリエンスがビジネスパーソンにとって不可欠な能力として注目されている背景には、いくつかの要因があります。
- VUCA時代の到来: 前述の通り、予測不可能な変化が常態化する現代において、個人も組織も予期せぬ事態に直面する機会が増加しています。変化の波に飲まれず、むしろその波を乗りこなすためには、高いレジリエンスが求められます。
- ストレス社会の深化: 労働環境の変化や情報過多により、ビジネスパーソンが抱えるストレスは増大しています。メンタルヘルス不調は個人の問題に留まらず、組織全体の生産性低下や離職率上昇に直結するため、個々人のレジリエンス向上は組織課題の解決にも繋がります。
- グローバル化と多様性: 異文化理解や多様な価値観への対応が求められるグローバルなビジネス環境では、予期せぬ摩擦や困難が生じやすくなります。異なる背景を持つ人々と協力し、困難を乗り越えるためには、相互のレジリエンスが重要になります。
- キャリアの長期化と変化: 人生100年時代と言われる現代において、個人のキャリアは長期化し、何度かの転換期を迎えることが一般的になります。キャリアの浮き沈みや変化に柔軟に対応し、自らの道を切り開いていくためにも、レジリエンスは不可欠な能力です。

レジリエンスが高い人の特徴とは?
レジリエンスが高い人には、いくつかの共通する特徴が見られます。これらは生まれつきの資質だけでなく、意識的な学習や訓練によって後天的に身につけることができるものです。
- 自己認識が高い: 自分の感情、思考パターン、強み、弱みを客観的に理解しています。自分がどのような状況でストレスを感じやすいか、どのように反応しやすいかを把握しているため、早期に対策を講じることができます。
- 感情のコントロールができる: ネガティブな感情(怒り、不安、悲しみなど)に支配されず、それを適切に処理したり、ポジティブな感情に転換したりする能力が高いです。感情を抑え込むのではなく、認識し、受け止め、適切に表現することができます。
- 楽観的な思考ができる: 困難な状況に直面しても、悲観的になるだけでなく、「なんとかなる」「きっと解決策がある」と前向きに捉えることができます。これは現実を無視する楽観主義ではなく、問題解決に向けての希望を持つ姿勢です。
- 問題解決志向が強い: 問題が発生した際に、その原因を特定し、具体的な解決策を積極的に探します。困難を単なる障害として捉えるのではなく、解決すべき課題として捉え、行動を起こすことができます。
- 柔軟な思考ができる: 状況の変化に合わせて、考え方やアプローチを柔軟に変えることができます。一つの方法に固執せず、複数の選択肢を検討し、最適な解決策を見つけ出すことができます。
- 良好な人間関係を築ける: 家族、友人、同僚など、周囲の人々と良好な関係を築き、必要に応じてサポートを求めることができます。一人で抱え込まず、他者からの支援を受け入れることで、心の負担を軽減し、困難を乗り越える力を得ます。
- 自己効力感が高い: 自分の能力を信じ、「自分ならできる」という自信を持っています。過去の成功体験を肯定的に捉え、新たな挑戦にも意欲的に取り組むことができます。
- 意味づけの能力が高い: 困難な経験や失敗から、何らかの意味や学びを見出し、それを自身の成長に繋げることができます。逆境を単なる不幸な出来事として終わらせず、人生の肥やしとして活かすことができます。
これらの特徴は、個人の特性としてだけでなく、組織全体の文化として育むことも可能です。レジリエンスの高い個人が集まることで、変化に強く、しなやかな組織を構築することができます。
レジリエンスを高める具体的な方法
レジリエンスは、特別な才能や先天的なものではなく、意識的な訓練によって誰もが身につけ、高めることができるスキルです。ここでは、今日から実践できる具体的な方法をいくつかご紹介します。
- 自己認識を深める:
- 感情のラベリング: 自分が今どんな感情を抱いているのか、具体的に言葉にしてみましょう。「イライラする」「不安だ」「悲しい」など、感情を認識することが第一歩です。
- 思考の記録: 日記やジャーナリングを通して、自分がどんな時に、どんなことを考えているのかを記録してみましょう。特にネガティブな感情が湧いた時の思考パターンを分析することで、その後の対処法が見えてきます。
- 強みの再認識: 自分の得意なこと、過去に困難を乗り越えた経験などを振り返り、自分の強みをリストアップしてみましょう。自己肯定感を高めることに繋がります。
- ストレスマネジメントを実践する:
- リラクゼーション: 深呼吸、瞑想、軽い運動、好きな音楽を聴くなど、自分に合ったリラックス方法を見つけ、日常的に取り入れましょう。
- 休息と睡眠: 十分な休息と質の高い睡眠は、心身の健康を保つ上で不可欠です。無理のない範囲で、休息の時間を確保しましょう。
- 適度な運動: ウォーキングやジョギングなど、適度な運動はストレスホルモンを減らし、気分を安定させる効果があります。
- 食事の改善: バランスの取れた食事は、心身の健康を支える基盤となります。
- 思考パターンを意識的に変える(リフレーミング):
- ポジティブな側面を見つける: 困難な状況でも、必ずしもネガティブな側面ばかりではありません。その中にある小さな良い点や、学びとなる点を探してみましょう。
- 視点を変える: 問題を別の角度から見てみましょう。友人や同僚だったらどうアドバイスするか、将来の自分ならどう考えるか、など、客観的な視点を取り入れることで、新しい解決策が見つかることがあります。
- 最悪のシナリオと最善のシナリオ: 不安を感じた時、最悪のシナリオを具体的に想像し、それに対処できるか、最善のシナリオはどうなるか、を考えてみましょう。現実的にはその中間に落ち着くことがほとんどです。
- 人間関係を育む:
- オープンなコミュニケーション: 自分の気持ちや考えを正直に伝えることで、周囲の理解を得やすくなります。
- サポートを求める勇気: 困った時は、一人で抱え込まずに信頼できる上司、同僚、友人、家族に相談してみましょう。
- 感謝の表現: 周囲の人々への感謝の気持ちを伝えることで、良好な関係をさらに深めることができます。
- 目標設定と達成の経験:
- スモールステップで目標設定: 大きな目標だけでなく、達成可能な小さな目標を設定し、それをクリアしていくことで成功体験を積み重ね、自己効力感を高めます。
- 達成の喜びを味わう: 目標を達成したら、その喜びを存分に味わい、自分を褒めることで、次の挑戦への意欲に繋げます。
これらの方法は、日々の生活の中で意識的に取り組むことで、少しずつあなたのレジリエンスを高めていくことができます。

組織におけるレジリエンスの重要性
個人のレジリエンスが高まることは、組織全体のレジリエンス向上に直結します。レジリエンスの高い社員が集まる組織は、以下のようなメリットを享受できます。
- 変化への適応力向上: 予期せぬ市場の変化や競合の動向にも、柔軟かつ迅速に対応できるようになります。
- 危機管理能力の強化: 困難な問題や危機が発生した際にも、冷静に状況を分析し、効果的な対策を講じることができます。
- 生産性の向上: ストレスによるパフォーマンス低下が抑制され、社員一人ひとりが最大限の能力を発揮できるようになります。
- エンゲージメントの向上: 社員が困難を乗り越え、成長を実感できる環境は、組織へのエンゲージメントを高めます。
- 離職率の低下: メンタルヘルス不調による休職や離職が減少し、優秀な人材の定着に繋がります。
- 組織文化の醸成: 互いに支え合い、困難を共に乗り越えるポジティブな組織文化が醸成されます。
企業が社員のレジリエンス向上に投資することは、単なる福利厚生ではなく、持続的な成長を実現するための戦略的な投資なのです。
まとめ:レジリエンスは、未来を切り拓く必須スキル
「レジリエンス」は、ストレスや変化の多い現代社会を生き抜く上で、すべてのビジネスパーソンにとって不可欠な心のスキルです。この力を高めることで、個人は困難を乗り越え、成長を加速させることができ、企業は変化に強く、持続的に成長できる組織を築くことができます。
レジリエンスは、生まれ持ったものではなく、誰もが学ぶことができる能力です。自己認識、ストレスマネジメント、ポジティブ思考、人間関係の構築など、様々な側面からアプローチすることで、着実にその力を高めていくことが可能です。
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